はじめに
「ハット(帽子)」というと、麦わら帽子やキャップ、ニット帽など、さまざまなスタイルが思い浮かびます。その中で「フェルトハット(フェルト帽)」は、秋冬ファッションのアイコン的存在。フェルトならではの温かみ、質感、クラシックな佇まいで、多くのファッション好きに愛されています。
でも、「フェルトハットって結局何?」「他の帽子とどう違うの?」「どれを選べばいいの?」という疑問も多いでしょう。
以下でじっくり見ていきましょう。
フェルトハットとは何か
定義と語源
フェルトハット(felt hat)とは、その名の通り「フェルト素材」でつくられた帽子を指します。フェルトとは、織らずに獣毛(羊毛、ウサギ毛、ビーバー毛など)を蒸気・熱・圧力で縮絨(しゅくじゅう)させ、繊維同士を絡ませて膜状(布状)に固めたものです。
さまざまな帽子の形状のうち、「中折れ帽(クラウン中央を折り込んだ形)」を基本形とするものをフェルトで作ったもの、あるいは広いつばを持たせたフェルト製ハット類も含めて、「フェルトハット」と呼ばれることが多いです。日本語辞典でも「フェルトでできた帽子、いわゆる山高帽・中折れ帽のこと」などと説明されています。
中折れ帽(なかおれぼう)は、クラウン(頭頂部)の中央を縦に折り込んだ形の帽子で、一般にはソフトフェルト製の帽子を指すことが多く、ソフト帽という呼び方もされます。
つまり、すべての「フェルトハット」が中折れ帽というわけではありませんが、中折れ帽の代表的素材がフェルトであり、重なって呼称されることが多いという関係性があります。
フェルトハットの特徴・魅力
保温性・断熱性
フェルト素材は密度が高く、空気を含みやすいため、保温性が高いという特徴があります。秋冬シーズンにおいて、冷たい風を遮りつつ頭部を暖かく保ってくれる優れた素材です。
風合い・質感
フェルトは見た目にソフトで上品な質感があります。無地でシンプルなものでも、その素材感のおかげで高級感や温かみが感じられ、服装との調和が取りやすいです。加えて、被るほどに“こなれ感”や“味わい”が出てくることも魅力です。
変形性・調整性
フェルトは適度に形を変えやすい性質があるため、ハットのブリム(つば)やクラウン(山の部分)を少し調整できるものもあります。例えばブリムを少し反らせたり、曲げを入れたりして自分らしいフォルムに仕立てる楽しみもあります。ただし、やりすぎると形を崩してしまうので注意が必要です。
耐久性
高品質なフェルトハットは、きちんと手入れすれば長く使えます。獣毛を使った上質なフェルトは摩耗しにくく、経年変化を楽しめる素材です。ただし湿気、変形、衝撃などには注意が必要です。
使用シーズン・適性時期
保温性を持つことから、主に秋冬(特に秋の初め~春の初め)に愛用されることが多いです。真夏には熱がこもって暑くなりやすいため、通気性のよい素材(麻、ストロー、涼しい布等)が好まれます。
ただしウール系フェルトを薄手にしたモデルや、通気性設計を工夫したフェルトハットも存在し、中間期(春・晩秋)にも被りやすいものも増えています。
フェルトハットの素材・種類
フェルトハットとひと口に言っても、使われる毛(獣毛)の種類や仕上げ方法によって価格・質感・耐久性などが変わります。以下に代表的な種類を見ていきましょう。
| 素材 | 特長・違い | 一般的な価格帯 | 補足 |
|---|---|---|---|
| ウールフェルト | 羊毛を主素材としたフェルト。比較的入手しやすく、コストパフォーマンスに優れる | 手頃〜中価格帯 | 汎用性が高く、多くのフェルトハットに使われる |
| ラビットファーフェルト | ウサギの毛を主原料にしたフェルト。柔らかく、しっとりした質感 | 中〜高価格帯 | 仕上げによって光沢感や撥水性を持たせるものもある |
| ビーバーフェルト | ビーバーの毛を使ったフェルト。最高級素材とされることが多い | 高価格帯 | 耐久性・風合いともに優れるため、高級フェルトハットで採用されやすい |
例えば、ウール < ラビット < ビーバーの順に原材料コストが上がる傾向があります。 また、ラビットフェルトはその仕上げや処理方法(毛先を揃える、毛流れを整える、光沢を出すなど)によって、表情の異なる複数のバリエーションが展開されます。
その他、混毛フェルト(ウール+他素材のミックス)や合成繊維を混ぜたフェルト(ポリエステル混など)も存在し、価格を抑えつつ耐久性を補おうとする製品もあります。ただし合成混入率が高すぎると、フェルトの温かみや質感が失われる可能性もあります。
帽子・ハットの種類と比較:フェルトハットと他のハット
フェルトハットを他の帽子と比較することで、その特徴や使い方がよりクリアになります。以下に代表的な帽子スタイルと比較しながら解説します。
ハット・帽子全体を整理するための基本分類
まず、帽子を大きく分けると以下のような視点があります:
- 素材(布地/編み/獣毛/ストローなど)
- 形状(クラウンの形、つばの長さ・方向、折りのあり・なし)
- 用途・シーン(フォーマル/カジュアル/アウトドアなど)
「ハット(Hat)」という言葉自体は「つば付きの帽子全体」を指す広い語であり、ストロー帽子、フェルト帽子、つば付きキャップなどすべて含みます。
以下に代表的な帽子形状を取り上げ、フェルトハットとの違いを見ていきます。
中折れ帽(フェドラ/中折れハット)
概要:クラウン中央を前後方向に折り込んだ形状。クラウン前面をつまんだフェドラ型が代表。フェルト素材で作られることが多い。
フェルトハットとの重なり:中折れ帽は素材によらず形状のカテゴリですが、フェルト製の中折れ帽は「フェルトハット」として扱われることが多いです。中折れ帽=ソフトフェルト帽という文脈もあります。
長所:
- クラシックで紳士的な雰囲気
- ジャケットやコートと合わせやすい
- フェルト素材なら保温性も兼ね備えやすい
短所:
- つばが広すぎると風に弱くなる
- フェルト素材の場合、雨や湿気に弱い
ボーラーハット(ボウラーハット/山高帽スタイル)
概要:丸く高めのクラウン、つばは水平あるいはわずかに反り返る形。伝統的には硬めの素材で作られることが多く、「山高帽」に近いフォルムを持つこともあります。
違い・比較点:
- フェルト素材で作られることもあるが、硬い素材で作られることが一般的
- クラウンが高め・丸みを帯びているため、被る人の頭とのバランスを考える必要あり
- スタイルとしてはクラシカル、またはフォーマル寄り
ホンブルグハット
概要:クラウンに山形を持ち、つばは上縁が少し反り返っており、全体にやや硬めの印象を持つ帽子。中折れより硬質な印象が強いタイプ。
違い・比較点:
- フェルト素材で作られることもあるが、硬さと形状維持性を重視した設計
- よりフォーマルな装い(スーツ、正装)に合う印象
- フェルトハット(ソフトフェルト系の中折れ帽)より、フォーマル性が高め
ポークパイハット
概要:クラウンが浅めで、つばが比較的短いスタイル。音楽・ストリート系ファッションにも取り入れられることが多い。
違い・比較点:
- フェルト素材で作られるものもある
- フェルトハットの中折れに比べるとクラウンが浅いため、頭との一体感が出やすい
- ストリート・クリエイティブ寄りのコーデによく合う
バケットハット(漁夫帽タイプ)
概要:頭を包み込むようなゆるやかなシルエットで、つばが一周取り巻くタイプ。元はアウトドア・漁業用途の帽子。
違い・比較点:
- 主に布素材(コットン、ナイロンなど)が多く、フェルトは少数派
- 通気性・軽さを重視する設計で、夏にも使えるものが多い
- カジュアルさが強いので、フォーマル・エレガントなコーデとは相性がやや薄い
ストローハット / パナマハット
概要:麦わらやラフィアなど、植物性素材で編んだ帽子。夏の定番。
違い・比較点:
- 通気性・軽さに優れており、夏場の着用に適する
- フェルトハットと比べると保温性は低い
- 素材感が軽やかなので、服の色味や質感との調和が重要
ニット帽 / ビーニー
概要:ニット(編み)素材でできたキャップ型の帽子。寒冷地やカジュアル用途で広く使われる。
違い・比較点:
- フェルトハットに比べてカジュアル・スポーティーな印象
- 伸縮性があり、フィット感が高い
- フェルトハットよりも保護/防風性はやや劣るが、被り心地がソフト
フェルトハットを選ぶ際のポイント
フェルトハットを購入/愛用する上で押さえておきたいポイントを以下にまとめます。
1. サイズ感とフィッティング
帽子は頭のサイズに合ったものを選ぶことが基本。フェルトハットでは頭囲、深さ(クラウンの高さ)、つば幅の3点を確認しましょう。クラウンが浅すぎると滑り落ちやすく、深すぎると締めつけ感が強くなります。
また、帽子には「ハットバンド(内側のバンド)」が入っており、それを少し調整できるタイプのものを選ぶと、微調整が可能です。
2. 素材・フェルトの質
上述したように、ウール、ラビット、ビーバーなどの素材差があるため、目的(コスト重視/風合い重視/耐久性重視)に応じて選びます。特に長く使いたいなら、ラビットやビーバー系の高品質フェルトを選ぶと満足度が高くなるでしょう。
3. ブリム(つば)の幅と形
つばの幅によって雰囲気が変わります。
- 狭めのつば(3〜5cm程度):スマートでスマートな印象。都会的コーデに合いやすい。
- 中くらい(5〜7cm程度):バランスがよく、さまざまなスタイルに合わせやすい。
- 広いつば(7cm以上):ドラマティック、またはボヘミアン風の印象。雨の日や日差し対策としても有効。
また、つばを若干反らせる、前だけ少し下げるなどの調整ができるタイプもあります。
4. 色・トーン
秋冬に使うフェルトハットは、ベーシックカラー(黒、チャコールグレー、ネイビー、ブラウン、ベージュなど)がコーディネートしやすくおすすめです。シーズンやスタイルに合わせて、アクセントカラー(バーガンディ、グリーン系など)を選ぶのもおしゃれです。
5. 形の調整性
前述の通り、フェルトは形を変えやすい性質があるため、多少つばやクラウンの形を調整できるモデルを選ぶと、自分の顔形に合わせてカスタマイズできます。ただしやりすぎると破損の原因にもなるため慎重に。
6. 価格帯・コストパフォーマンス
素材・仕上げ・ブランドによって価格差は大きくなります。最初は中価格帯(ウールフェルト、しっかりしたつくり)を試してみて、気に入れば上位素材へステップアップするのもいいでしょう。
7. 用途・シーンを想定
- 日常使い・街着として:つばが中〜狭め、色はベーシック系
- イベント・フォーマル寄り:硬め素材、整ったフォルム、シックな色
- 雨・雪の日対応:撥水加工や防水仕様のもの、つば広め
- 旅行用/折りたたみ式:クラッシャブル(折りたたみ可能)タイプやソフトフェルト仕様
フェルトハットの歴史的背景・文脈
フェルトハットは単なるファッションアイテムではなく、歴史・文化の文脈の中で育まれてきました。以下はその主な流れと背景です。
フェルト素材の起源
毛織物文化とともに、羊毛を縮絨してフェルト化する技術は古来から存在しました。フェルト素材自体は非常に古い技術です。その後、この素材を帽子として使う流れがある程度確立したのは、西洋帽子文化の発展と近代服飾文化の拡大が関係します。
帽子文化の発展とフェルトハット
19世紀〜20世紀初頭になると、男性の正装や外出時の礼装において帽子(ハット、シルクハット、山高帽、ボウラーハットなど)が重要な位置を占めました。その中で、フェルト素材による中折れ帽(フェドラ帽)は、比較的ソフトで着脱しやすい帽子として普及しました。
「フェドラ(fedora)」という名称の起源には、1880年代の舞台劇『フェドラ(Fedora)』で女優がかぶった帽子が由来とされ、そのスタイルが男女問わず流行したという説があります。その後20世紀前半、映画スターや紳士スタイルの象徴としてフェドラ帽(フェルト製中折れ帽)は定番化しました。
また、インディ・ジョーンズのような映画キャラクターによって再評価された時期もあります。
日本におけるフェルトハット
日本でも明治以降、洋装文化の普及とともに帽子着用が広まり、フェルト帽(中折れ帽)が礼装・外出着の定番のひとつとなりました。戦前・戦後期には紳士・実業家・公務員などの装いに取り入れられ、街並みの風景の一部となっていました。現在ではカジュアルファッションのアクセントや季節アイテムとして広く使われています。
コーディネート例:フェルトハットを使いこなす
フェルトハットの魅力は、その「着こなしとの調和」にあります。以下にいくつかのコーデ例とポイントを紹介します。
カジュアルコーデ
- デニム × ニット × フェルトハット
秋口には、濃インディゴデニム(ジーンズ)に濃色ニット、そしてチャコールや焦げ茶のフェルトハットを組み合わせると、ナチュラルながらも統一感のある装いになります。

- チェスターコート × スラックス × フェルトハット
シンプルなチェスターコートとスラックスに、黒やグレーのフェルトハットを加えると、きれいめカジュアルな雰囲気が出ます。

- アクセントカラーを投入
全体をモノトーン基調にして、ハットだけバーガンディ、オリーブ、ネイビーブルーなど色を差すと、洗練された印象を作り出せます。
フォーマル/ドレッシーな装い
- スーツ × フェルトハット
ジャケット・スーツスタイルに合わせる場合は、硬さと形状のしっかりしたフェルトハット(中折れやホンブルグ系)が合います。色は黒・濃灰・ネイビー系が無難。

- ワンピースまたはドレス × フェルトハット
女性の場合、ドレッシーなワンピースやロングコートに、つば広フェルトハットを合わせてクラシカルなスタイルに仕立てても素敵です。

シーズン的な応用
- 晩秋~冬:厚手のコート、マフラー、レザーグローブなどと組み合わせやすい
- 初春・晩春:ライトコートやトレンチコート、淡い色の服と合わせて春風を感じさせるコーデに
- 雨模様 / 雪の日:撥水タイプのフェルトハットや、つば広形状を選べば多少の雨なら対応可能
顔型・キャラクターに応じた選び方
- 面長な顔:つばが中〜広めで、クラウンに高さがあるタイプが顔のバランスを整えやすい
- 丸顔:浅めのクラウン+少し斜め角度で被るとシャープさを演出できる
- 四角顔 / エッジのある顔立ち:つば幅があまり広すぎないものが相性がよく、帽子を少し前に傾けることで柔らかさを出せる
フェルトハットのお手入れ法・保管法
長く愛用するためには、フェルトハットをきちんとケアすることが大切です。以下は基本的なお手入れ・保管法です。
日常のお手入れ
- ブラッシング
柔らかめの帽子ブラシで、毛の流れに沿ってホコリを取ります。つば裏~クラウンの接合部あたり、リボンやバンドの周囲も丁寧に。 - 湿気対策
フェルトは湿気を嫌うため、雨に濡れたらすぐ陰干しして乾かす。直射日光を避けて風通しの良い場所へ。完全に乾いた後にブラッシング。 - シミ・汚れ対応
軽い汚れなら、湿らせた綿布やフェルト用クリーナーを用いてトントンとたたくようにして除去。強いシミは専門店でのクリーニングを。 - 形の復元
クラウンやつばが変形したら、蒸気(アイロン蒸気など)を少しあてて、指や手で形を整え、冷めるまで保持する。これにより形状を修正可能。 - 防虫対策
獣毛素材なので、防虫剤(天然由来や無香料タイプ)を併用。直接帽子に防虫剤をかけないよう注意し、防虫シートや別袋に入れて保管する。
長期保管・保護法
- 型崩れ防止:帽子用の型(支え)を入れたり、風通しの良い箱にしまったりすることで変形を防ぎます。
- 乾燥を保つ:湿気を避け、乾燥した場所に保管。除湿剤を併用するのも有効。
- 重ね置き禁止:帽子同士を重ねるとつぶれやすいため、単独で収納するようにします。
- 陰干しと風通し:時折陰干しして空気に触れさせることで、湿気を飛ばし、カビの発生を抑えます。
フェルトハットのメリットとデメリットまとめ
最後に、フェルトハットを使う際の優劣を簡単に整理しておきましょう。
メリット
- 保温性・断熱性が高く、秋冬に適している
- 上品でクラシックな質感があり、コーディネートに深みを与える
- ある程度形を調整でき、自分らしく仕立てられる余地がある
- 長く使える素材として育てる楽しみがある
デメリット・注意点
- 湿気・雨・雪に弱く、水濡れや湿度管理が課題
- 形状を保つためにケアが必要
- 真夏には蒸れやすく、暑く感じやすい
- 高品質素材(ラビット、ビーバー等)は価格が高い
総括:フェルトハットという選択
フェルトハットは、素材の良さとクラシカルなスタイル性を併せ持つ帽子ジャンルのひとつです。特に秋冬シーズンには抜群の存在感と実用性を発揮します。他のハットと比較することで、それぞれの帽子が持つ特色が見えてくるでしょう。
もし「最初の1本」として選ぶなら、中価格帯のウールフェルト製中折れハットを選んで、帽子文化や自分のスタイルに馴染ませるところから始めるのがよいでしょう。そして、徐々に素材違い、形違いを試して、自分だけのフェルトハットコレクションを育てていくのが楽しみです。
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